犬の腹腔内潜在精巣(陰睾)における去勢手術

当院で実施した外科症例について紹介します。

今回は犬の腹腔内潜在精巣(陰睾)における去勢手術の症例です。

※術中写真が表示されますので苦手な方はご注意ください。

 

プロフィール

犬 雑種 雄 6カ月齢

 

来院理由

去勢手術相談

 

検査

身体検査にて左側精巣は陰嚢内に触知できたが右側精巣は陰嚢内に触知されず。

エコー検査を実施したところ右側精巣を腹腔内に認めた。

その他健康状態の問題は認められていない。

腹腔内に認められた右側精巣のエコー画像

 

診断

右側の腹腔内潜在精巣(陰睾)

 

外科手術

手術直前、全身麻酔下にて腹腔内の右側精巣の位置をエコー検査で再度確認。陰茎のすぐ脇の皮膚と腹壁を切開し、精管をランドマークに精巣を確認し取り出す。血管と精管を結紮して摘出。左側の精巣は、本症例では陰嚢内に認めたため陰嚢内より引き出し、同様に血管と精管を結紮して摘出。

腹腔内に存在した右側精巣を引き出し、摘出しているところ。矢印は精巣を示す。

摘出した左右の精巣。腹腔内に存在していた右側の方が小さい。

 

手術後の経過

本症例では腹腔内にある精巣に対して開腹手術を行ったため1泊入院下で術後経過観察。術後の経過は安定していたため、手術翌日に退院とした。

予定通り術後14日で抜糸を行った。

 

腹腔内精巣(陰睾)について

精巣は通常、腹腔内から陰嚢内へと下降します。その時期はおおよそ犬で1~4カ月齢といわれています。これに対し、片方または両方の精巣において正常な精巣下降が認められない状態を「潜在精巣」または「陰睾」といいます。潜在精巣の原因には様々なものがありますが、現在は遺伝的な要因、精巣を下降させる役割を果たす器官の未発達、ホルモンの影響などが主なものとして考えられています。

潜在精巣では、陰嚢内へ正常に下降した精巣と比べると将来の精巣腫瘍の発生率が9.2~13.6倍にも上昇するという報告もあります。そのため、5~6カ月齢までに精巣下降がみられない場合には、腫瘍発生リスクを抑えるためにも手術によって精巣を摘出することが望ましいでしょう。

去勢手術に関するメリット・デメリットについてはこちらの記事もぜひご覧ください。

また当院では、去勢手術のご相談も承っております。去勢手術をご検討中の方、精巣下降に関してご不安な点やご不明点等ございましたらお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

渡部(獣医師)
幼少期から生き物や自然と関わることが好きで、昆虫や魚類、爬虫類と様々な生き物を飼育している。中でも10年間一緒に過ごした大型犬はもはや「妹」。獣医師として特に腫瘍の分野に力を入れたいと考え、日々勉強に励んでいる。甘党、ディズニー好きという女子っぽさもありつつ実は恐竜好き。