怖い猫のウイルス感染症!猫の飼い主なら知っておくべき疾患 猫伝染性腹膜炎(FIP)をご存じですか?
猫のコロナウイルス感染症である猫伝染性腹膜炎(Feline infectious peritonitis FIP) とは、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP Virus : FIPV)の感染によって起こる病気です。
FIPは発症するとほぼ100%死亡する病気で、猫コロナウイルス(FCoV)という分類の中に含まれており、猫に病気を起こすコロナウイルスはほかには猫腸コロナウイルス(Feline enteric corona virus : FECV)があります。FECVは比較的軽度の腸炎を起こすだけで、通常は数日でよくなることがほとんどです。
FIPVの発生源は未だによくわかっていませんが、FECVが猫の体内でFIPVに変異するという説と、弱毒性~強毒性のFCoVが幅広く存在するという説があります。
日本の猫では約20%がFCoVに対する抗体を持っています。多頭飼いやブリーダーのような飼育環境ではほぼ100% FCoVの抗体を持っていると言われていますが、血液中の抗体検出だけではFIPなのかFECVなのかを判別することはできません。形や遺伝子レベルでも非常に似ていて、FECVにもFIPVが体内に入り、その抵抗因子として作られるFCoV抗体は1種類しか産生されないため、FCoV(猫コロナウイルス)抗体価が高い=FIPの感染とはなりません。
FIPの症状は?
FIPが発症するとどのような症状が起こってしまうのでしょう。
ウェットタイプ(滲出型)とドライタイプ(非滲出型)の2種類に分けられます。
黄疸の猫です。白目や皮膚が黄色く変化しているのが分かります。
FIPウェットタイプ
ウェットタイプはお腹や胸に水がたまる(腹水、胸水)症状が特徴的です。血管の膜に炎症が起きて液が沁みだしてくることで水が溜まってきます。特に胃の周りと、ほかには心臓と心膜の間に水がたまる(心嚢水)こともあります。
この貯留液はとても特徴的で、滲みだしてきたタンパク質の濃度が高く、黄金色で空気に触れるとトロっとしてきます(粘稠性がある)。
目の中の膜で炎症が起き、ブドウ膜炎や脈絡膜炎が見えあれることも比較的多いです。
赤坂動物病院 石田卓夫先生ご提供
FIPドライタイプ
ドライタイプは水が貯まるということはなく、いろいろな臓器にしこり(肉芽)を作るのが特徴です。肝臓や腎臓、腸に肉芽ができると機能が低下します。
脳に炎症が起きると神経症状がみられたりすることもあります。
FIPの診断
FIPの診断は非常に難しく、経過、臨床症状、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、FCoV抗体検査、PCR検査によって総合的に判断していきます。
100%の確定診断にはなりませんが、高確率で血液中にγ(ガンマー)グロブリン血症が見られますので、高いFCoV抗体価とγグロブリン血症の両方がみられる場合はFIP陽性がかなり疑われます。
腹水や胸水、肉芽に含まれる猫コロナウイルスをPCRによって検出されると診断となりますが、針吸引が難しい場合やウイルスの検出ができない場合もあり、診断が非常に難しく生前の確定診断が付けられないケースも少なくありません。
FIPになってしまった場合の治療
FIPに対する有効な治療法は確立されていません。一般的には対症療法が行われています。炎症に対してステロイド薬の使用や、抗ウイルス作用としてインターフェロン、腹水、胸水により呼吸困難がみられる場合は吸引の処置などが行われます。
これらの治療はあくまでも症状を緩和する目的で処置されるもので、完治はしないと思っているほうがいいでしょう。
近年MUTIANというサプリメントに効果がみられると取り上げられています。非常に高額、かつ国内では承認が得られていませんので当院では使用を推奨しておりません。将来的にデータがしっかりと検証された上で、医薬品としての承認が取られて初めて使用が出来ると考えておりますので、販売されることを待ったほうが良いと思われます。
2021年2月、5-アミノレブリン酸(5-ALA)というアミノ酸の一種が試験管内実験でFCoVの増殖を抑えたという新たな報告がありました。5-ALAは健康食品や、様々なサプリメントとして幅広く利用されていて医薬品として承認されているものもあります。
FIPの治療薬としては期待するのは早すぎるかもしれませんが、今後の研究結果が良いものになればうれしいですね。
現在もいろいろな治療法が研究されており、ウイルスを駆逐される日が早くきてほしいものです。