首や腰だけじゃない!ヘルニアにもいろいろあるんです。 犬や猫にも横隔膜ヘルニアってきいたことありますか?
ヘルニアと聞くと、首や腰のヘルニアを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、ヘルニアという言葉は、臓器や組織が体の裂け目や穴を通って本来の位置からずれて脱出した状態のことを指します。
椎間板ヘルニアの他に、横隔膜ヘルニア、会陰ヘルニア、臍ヘルニアなど骨の異常以外のヘルニアも存在します。今回は、その中の横隔膜ヘルニアについて解説していきます。
臍ヘルニアについてはこちらをご覧ください。
横隔膜ヘルニアとは
横隔膜は肺や心臓のある胸部と肝臓や腸などがある腹部を仕切っている筋肉の膜のことで、焼肉でいうところのサガリやハラミにあたります。
この膜が何らかの原因で破れてしまい、腹部臓器が胸部の空間へ入り込んでしまう状態のことを横隔膜ヘルニアといいます。
原因
原因は大きく先天性(生まれつき横隔膜に異常があって発症する)のものと後天性のものに分けられます。先天性では下記の3つのタイプに分類されます。
・先天性横隔膜ヘルニア
<心膜腹膜横隔膜ヘルニア>
腹腔内臓器が心膜の中に入り込んでしまう状態のことを指します。
犬よりも猫で多くみられ、多くは無症状なことが多いです。ヘルニア孔と呼ばれる穴が大きい症例では症状がみられることもあります。
<胸膜腹膜ヘルニア>
横隔膜のヘルニア孔が大きく、出生直後に亡くなってしまうこともあります。
<食道裂孔ヘルニア>
横隔膜にある食道が通る穴(食道裂孔)が生まれつき緩く、腹腔内の食道や胃が食道裂孔を通って胸腔に入り込むことをいいます。
・後天性横隔膜ヘルニア
交通事故や落下事故などの大きな衝撃が原因で横隔膜が裂けて、腹部の内臓が胸部に入り込んでしまい発症します。
症状
腹部のどの臓器がどの程度胸部の方に入り込んでいるかによって症状は異なります。事故や外傷による横隔膜ヘルニアはすぐに症状がみられることが多いです。
腹腔内の臓器が胸腔に入り込み肺や心臓を圧迫、さらに横隔膜が破れてしまうことで呼吸がうまくできなくなり、呼吸が浅く速くなる症状やじっとして動かなくなるような症状がみられたりします。
腸など消化管が入り込んだ場合は下痢や嘔吐を引き起こすこともあり、重度の場合はショック状態に陥り緊急を要することもあります。見るからに様子がおかしい場合はすぐに受診しましょう。外傷を受けた直後には問題なく見えても、1ヵ月以上経ってから横隔膜ヘルニアになり症状が現れることもあるため注意が必要です。
また、先天性横隔膜ヘルニアの場合は症状が現れにくいことも多く、健康診断などで偶発的に見つかることも多いです。
<よく見られる症状>
・呼吸が速い
・腹部痛
・動いてもすぐ疲れる
・嘔吐
・腹水、胸水の貯留 など
検査
一般的にはレントゲン検査でわかることも多いですが、超音波検査やCT検査が必要な場合もあります。
全身状態を把握するために血液検査、心電図が必要な場合もあります。
治療
先天性、後天性横隔膜ヘルニアともに、外科手術によって臓器を元の位置へ整復し裂けた横隔膜のヘルニア孔を閉じるのが一般的な治療になります。
必ず手術が必要というわけではなく、慢性経過を辿って症状が落ち着いている場合は内科的治療や経過観察を行うこともあります。
発症から時間の経過が少ない症例は、臓器同士の癒着も少なく裂傷したヘルニア孔の縫合のみで治療が可能なことが多いのですが、先天性の場合や横隔膜ヘルニアが長期に存在していたケースでは臓器の癒着が生じている可能性が高く、ヘルニア孔も大きいことも考えられるため手術が困難なケースもあります。
術後の合併症のリスクなどを考慮して治療方法を決めていきます。
合併症のリスクが高い場合や肺炎や腸炎など全身状態が良くない場合など、麻酔をかけられない状態の場合は手術をしない、もしくは遅らせることもあります。
予防
交通事故や落下事故などの後天性横隔膜ヘルニアの予防のため、室内であれば落下防止などの対策や生活環境の確認などを行いましょう。特に猫ちゃんは完全室内で生活をすることで交通事故はほぼ100%防ぐことができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
先天性の予防は難しいですが、後天性のほとんどが強い衝撃による外傷が原因となるため、ご家族の注意や生活環境改善をできることによって防ぐことができます。
今一度、ご自宅の中に危険が潜んでいないか環境の見直しなどをしてみましょう。