「肝」腎かなめと言われるけど、どうして大事なの?犬や猫の肝臓の構造や主な働きについて解説します。
肝臓とは?
肝臓は胃に近い場所に位置し、他の臓器に比べて赤みがある臓器です。
焼き肉のレバーと呼ばれる部分が肝臓にあたります。
形は人間では逆三角形のような形をしていますが、犬猫は半円のような形をしています。
一般的に草食動物よりも肉食動物の方が大きく、犬猫では体重の2~3%ほどの重さと言われており体の中で最も重い臓器です。
犬猫の肝臓は1つの臓器で構成されているのではなく、6つのパーツが集まった臓器であると知っていましたか?1つのパーツが1葉と数えられて、犬猫では6葉で形成されています。
「肝」腎かなめな働き
肝臓はいったいどんな働きをしているのでしょうか。
肝臓の働きは大きくわけて4つとなります。
①栄養の代謝・貯蔵
食べ物を消化することで得た栄養素であるタンパク質・炭水化物・脂質は血流に乗り肝臓へと運ばれ代謝されます。また、これらの栄養素を貯蔵しておく役割も担っています。
特に糖の貯蔵は血糖値に大きく関わっており、吸収した糖「グルコース」を「グリコーゲン」に変換し肝臓内に貯蔵しておきます。逆に糖が足りない時には肝臓から「グリコーゲン」を「グルコース」に変換し、血液内に戻すことで血糖値を維持しています。
②解毒作用
タンパク質を分解した際に代謝産物としてアンモニアが産生されます。
このアンモニアは体にとって有害な物質であり、そのままの形で排出することができません。肝臓ではアンモニアを尿素という化合物に変化させて腎臓から排出します。
また、体内で吸収されたお薬も肝臓によって代謝しています。肝臓に含まれているチトクロームP450と呼ばれる酵素によって薬物の効果を低下させ、水にとけやすくすることで腎臓から排出しやすいようにしています。
③胆汁の産生
脂肪の吸収を助ける胆汁を産生しています。胆汁は消化に不可欠な胆汁酸だけでなく、コレステロールやビリルビン、肝臓で代謝された老廃物などが含まれています。胆汁についてはこちらをご覧ください。
④血液凝固因子の産生
肝臓では様々な働きのタンパク質の合成を行っていますが、血液を固める因子であるプロトロンビンやフィブリノゲンといったタンパク質の生産も行っています。肝機能が低下した場合、タンパク質の合成が行えなくなり止血障害を起こす場合があります。
肝臓の病気
肝リピドーシス
肝臓に脂肪が異常に蓄積し、機能障害を起こす病気です。特に、肥満猫での発症が多く何らかの理由で急にごはんを食べなくなってしまうことで発症することがあります。
食欲不振、体重減少、嘔吐などがみられ、特徴的な症状として皮膚や目の粘膜、歯茎などの目に見える粘膜(可視粘膜)が黄色くなる黄疸がみられます。
門脈体循環シャント
通常、腸から吸収した栄養素と血液は、腸と肝臓をつなぐ「門脈」を通り肝臓に流れますが、異常な血管(シャント血管)により門脈と肝臓を通らずに心臓に流れてしまう病気を門脈体循環シャントと言います。
血液中には数多くの老廃物が含まれており、この門脈体循シャントでは肝臓による解毒作用を受けずにそのまま体に循環してしまいます。それにより、様々な障害をもたらしたり、肝臓に栄養が行き渡らないため肝臓が栄養失調に陥り、肝臓が萎縮することがあります。
門脈体循環シャントについて詳しくはこちらをご覧ください。
腫瘍
人における原発性肝臓腫瘍の原因は、ウイルス性肝炎や肝硬変などの肝臓疾患や発がん性物質による暴露と言われていますが、犬と猫では不明です。
腫瘍が大きくなると他の臓器を圧迫してしまう物理的な障害があり、手術などで摘出することが一般的な治療になります。
犬の肝臓の腫瘍では60%程度は食欲不振や嘔吐、多飲多尿などの症状が認められるという報告がありますが、症状を示さないこともあるので定期的な検査が重要です。
肝炎
肝炎は急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。
急性肝炎の多くは中毒や感染症が原因であり、薬物や毒物の摂取、アデノウイルス感染症やレプトスピラ症などで生じることがあります。急激に肝臓がダメージを負うことで症状を起こします。
一方、慢性肝炎は長期間炎症が続くことで肝臓の細胞が徐々にダメージを受けることで機能障害を起こします。遺伝的な要因や感染症、長期に渡る薬剤使用、猫の場合は細菌感染による胆管炎などが要因となります。
肝炎の主な症状として、食欲不振、元気消失、嘔吐、下痢、黄疸などが現れ、特異的な症状がありません。そのため、少しでも様子がおかしいと感じたら病院へ行きしっかり検査をしてもらいましょう。
肝硬変
慢性肝疾患などにより生じる肝臓が繊維化することを肝硬変といい、線維化により肝臓の細胞数減少や肝臓の細胞機能が低下するため、肝臓が機能しなくなります。
肝臓の働きであるタンパク質の合成が減少するため、浮腫みや腹水、血液凝固異常などの症状がみられます。
また、肝機能低下に伴い解毒作用が低下するため、血液中のアンモニアが増加します。アンモニアには毒性があり、血液中のアンモニア濃度が高い状態で脳に到達すると、神経機能障害である肝性脳症を引き起こします。
肝臓の検査
肝臓の検査にはどのようなものがあるのでしょうか。
主に行われる検査はこちらです。
①血液検査
肝臓が炎症や外部からの衝撃などの傷害を受けると「ALT(GPT):アラニンアミノトランスフェラーゼ」「AST(GOT):アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」の数値が高くなります。ASTに関しては筋肉や心臓にも含まれているため、ASTだけが高い場合は肝臓に傷害があるとは言い切れません。
また、胆汁に多く含まれている「ALP:アルカリフォスファターゼ」という誘導酵素は胆汁の流れが悪くなると数値が特異的に上がります。 腫瘍や犬ではステロイドの影響で値が上昇することもあります。
「GGT(γ-GTP):γグルタミルトランスペプチダーゼ」は肝臓の細胞内に多量に含まれている酵素であり、肝臓や胆のう系の疾患があると血中にその酵素が排出されるため数値が上昇します。
これらの血液検査項目をみて肝臓の評価を行います。
②超音波検査
超音波を用いて断片的に肝臓をみて評価する方法です。
下の写真の青線で囲っている部分が肝臓です。肝臓の形や腫瘍の有無、門脈体循環シャントがないか確認します。また胆のう内の胆汁の性状や胆管の状態を診ることもできます。
③レントゲン
X線を使用し、肝臓やその周辺の臓器を平面的に撮影します。これにより、肝臓の大きさやその位置などを見ます。ただ、肝臓の腫瘍が小さい場合は検出が困難な場合があります。
④生検
生検の方法は3通りあります。
1つ目はお腹を開かずエコーで肝臓の位置を確認しながら針を刺す方法です。
検査を行いたい部分に直接針をさし、ごく少量の細胞を採取します。顕微鏡で見やすいように採取した細胞を薄く広げ、染色して細胞の評価を行います。
麻酔不要でできる検査であるため(場合によっては麻酔が必要なときもあります)、身体の負担が少なく検査することができます。しかし、針という細かなものを利用して採取するため確実に細胞を採取できるわけではありません。
2つ目はTru-cut生検です。病変部分を外科的切除しない場合に適用され、細胞診よりも太い針で病変部分を刺し、組織の一部を採取します。全身麻酔を使用しますが、開腹せずに行える生検方法であり(場合によっては開腹する必要があります)負担が少なく行える生検方法です。
3つ目は切除生検です。全身麻酔下で開腹手術を行い肝臓の一部採取、病変部位の組織を顕微鏡で見やすいように薄く広げ評価を行う方法です。
上記2つの方法に比べ確実に病変部位の細胞や組織を採取することができるため、確実な診断をすることができます。
どんな症状がでるの?
肝臓の病気がある場合、以下のような症状が出ることがあります。
・元気食欲喪失
・体重減少
・嘔吐
・下痢
・皮膚や粘膜が黄色くなる(黄疸)
・腹水
皮膚や粘膜が黄色い場合は肝臓の病気の可能性が非常に高いですが、他の症状は肝臓以外の異なる病気でも似たような症状が出ることがあり、普段から吐き戻ししやすい犬猫では病気と気づきにくいこともあります。
どこか体調がよくない、うちの子は吐きやすいと思っていても、実は肝臓の病気が隠れている可能性があるのです。
沈黙の臓器
肝臓は「沈黙の臓器」をいわれており、肝臓の機能が低下しても症状がなかなか現れません。そして、症状が現れた時にはかなり病状が進行している場合もあります。
当院でもご紹介した検査方法は実施可能です。早期発見のために年に1度は健康診断を行い健康維持に努めましょう。