犬も猫もお薬を飲むときがある!抗菌剤の用法用量を守りましょう! 〜耐性菌を生まない抗菌薬の使い方〜
〈抗菌剤について〉
抗菌剤・抗生物質といったこと言葉を一度は耳にされたことがあるかと思います。
大まかにはどちらも同じ意味を持ちますが厳密に言いますと、抗菌剤は細菌を破壊・殺菌し、増殖を抑える役割のある薬剤であり、その中でも抗生物質は微生物が産生し他の微生物の発育を阻害する物質のことをさします。
抗生物質で有名なのはご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、以前テレビでも放送された「JIN」に出てきたペニシリンです。
ペニシリンは青カビから発見された化学物質であり、世界初の抗生物質です。抗菌剤の中でも抗生物質以外の薬剤は人工的に作り出された化学物質です。
〈耐性菌について〉
動物病院は一般的な人の病院と比較し、抗菌剤を処方する機会が多いとされています。
そもそも動物の皮膚表面には人に比べてもたくさんの菌が存在しています。それは常在菌と呼ばれ、皮膚のコンディションを整え皮膚に対して良い働きをしています。しかし、皮膚に傷を負ったり、舐めることで病変から常在菌が侵入し細菌感染を起こすことがあります。
その他にも、動物の病気には細菌由来の病気が多い傾向にあります。細菌感染症を治すには抗菌剤が必要であり、そのため、動物病院では処方される機会が多いです。
そのたくさん処方するが故に現在問題視されているのが薬剤耐性菌です。薬剤耐性菌とは抗菌剤に対し抵抗性を持ち、薬剤の効果がなくなる、もしくは効きにくくなる細菌のことです。
抗菌剤が効かない場合に新しい抗菌剤を服用するとしばらくは効果がありますが、使用し続けることで効果がなくなったり、効果が弱まります。これを繰り返すと多くの抗菌剤に耐性を持った菌が発生します。それが薬剤多剤耐性菌です。薬剤多剤耐性菌が出現すると治療が非常に困難となります。
〈動物で問題となる耐性菌について〉
現在、動物で問題となる耐性菌はメチシリン耐性ブドウ球菌(M R S)、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(E S B L)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(M R S A)です。
このうちE S B L産生大腸菌は糞便を介して、動物と人でうつし合うというリスクがあるため注意が必要です。
黄色ブドウ球菌は人の皮膚にいる菌であり、M R S Aがまれに動物で検出はされます。これは人から動物にうつりますが、動物から人、動物から動物へはうつりません。
耐性菌が認められた場合には犬や猫の取り扱いに注意しなければなりません。
〈耐性菌の発生を防ぐには?〉
ではどのようにすれば耐性菌の発生を防げるのでしょう。
抗菌剤にはさまざまな種類があり、細菌もさまざまな種類が存在します。どの細菌がどの抗菌剤に効きやすいということもあり、闇雲に抗菌剤の選択をしてはなりません。
どのように抗菌剤の選択が行われているかというと、細菌が発生している病変部から細菌を採取し、特殊な染色液で染色もしくはそのまま、顕微鏡で観察し大まかな細菌の同定を行います。
また、病気や疾患部位により発生しやすい細菌が存在するので、これらのことを踏まえて抗菌剤を選択します。
一般的な細菌感染症はこのように選択した抗菌剤を使用することにより、細菌が減少もしくは死滅し、症状が軽快します。しかしながらこのような治療をしているにもかかわらず、症状が軽快しない場合には耐性菌の存在を考えます。
漠然と抗菌剤の種類を変更するのではなく、細菌培養・薬剤感受性試験という検査を実施します。この検査をすることで、細菌の種類を同定し、その細菌に効く抗菌剤を選択することができます。しかし、採取した細菌を培養し、薬の効果判定まで行うため、検査結果が出るまで1−2週間の時間を要するため、早い段階での決断が必要です。
次に大事なことは、指示された用法・用量通りに薬を服用することです。用法・用量通りに服用することで、細菌は死滅もしくは再増殖できないレベルまで少なくすることができます。
しかし、獣医師の指示通りに服用しないことで、本来死滅させることができた細菌が中途半端に生き残ってしまい、耐性を獲得することもあります。
例えば、1日2回5日間1錠ずつ飲むべき抗菌剤を2日間でやめてしまったり、1日1回で服用したり、1回当たり半錠で服用したりとさまざまなケースがあると思います。どのケースの場合も耐性菌を発生させるリスクがあります。
獣医師の指示通り、すなわち用法用量通りに服用することがとても重要です!
〈まとめ〉
このように私たちの抗菌剤の取り扱いにより耐性菌を発生させることもでき、発生を予防することもできます。耐性菌の存在は動物を苦しめ、ときには人にまで被害が及びます。
必要な検査の実施、適切な抗菌剤の選択、用法用量の順守をすることが動物・人に優しい治療と言えるでしょう。