その目の充血、犬と猫の痛みのサインかもしれません

犬と猫も目ヤニが増えたり、目が赤く充血する子がみられます。

その原因は様々であり、春先には砂や花粉などの物理的刺激によって症状が現れる子が増えます。そのうち治るかな、と放置しておくと場合によっては失明の危険を伴うものもあります。

一言で「目が赤い」といっても、充血と出血の2種類に分類されます。充血とは目の表面の血管が怒張して目立つことで、目が赤くなってみえることを言います。

出血とは、何らかの原因で目の血管が壊れて目の中、あるいは表面に血液が貯まって赤く見えることを言います。

今回は、目が赤く充血する病気について解説していきます。

 

赤くなっている部位は?

主に赤くなりやすい部位は、角膜、結膜、強膜の3つです。

・角膜…目の中央にある円形の組織で光を通すために透明で血管はありません。角膜は目に入ってくる光を網膜上に焦点を合わせるために強い屈折力を持ち、物を見るための重要な役目を持っています。

・結膜…結膜とはまぶたの裏側から眼球の黒目の部分(角膜)の境までの白目の部分を覆っている膜で、外界の刺激から眼球を守る役割をします。

・強膜…眼球の外側をつくる「白目」であり、乳白色の強くて囲い膜で前方は角膜とつながっています。 その下には脈絡膜という黒褐色の膜があります。 構造的には腱に近く血管が少なくてほとんど光を通さないため、眼球内へ不必要な光が入るのを防ぎ眼球の内部を保護し、眼球の形を保っています。

目の構造について詳しくはこちらをご覧ください。

 

充血の原因

白目が真っ赤になっている:頭部や目に外傷や強い衝撃を受け、出血した可能性があります。

白目の血管が目立っている:血管が怒張して血管が目立って見える状態です。目の表面の充血や、深層部の充血によって目が赤く見えている状態です。

・角結膜の外傷

・緑内障

・乾性角結膜炎

・水晶体脱臼

・白内障

・猫風邪や細菌などの感染症

・アレルギー

目の病気について詳しくはこちら白内障 緑内障 ドライアイで解説しています。

 

黒目の奥が赤く見える:目の中で出血が起きている可能性があります。

・網膜剥離

・ぶどう膜炎

・眼内腫瘍

・外傷

 

黒目の表面に血管が入り込んでいる:黒目は角膜で覆われており、血管は角膜上にない状態が正常です。白目の部分から角膜に血管が入り込む現象(血管新生)が起きると、黒目が赤くなって見えます。

・異所性睫毛

・乾性角結膜炎

・外傷(角膜への傷)

・眼瞼外反症

・眼瞼内反症

・猫風邪や細菌などの感染症

 

この他に、目頭にポコッと赤く小さなサクランボのような丸いもの飛び出てくる「チェリーアイ」という病気もあります。

体調がすぐれない時や衝撃を受けた時、興奮した時などに瞬(しゅん)膜(まく)(第三眼瞼)という部位がまぶたの外側に飛び出してくることを指し、別名は瞬膜腺突出とも言います。

チェリーアイについて詳しくはこちらをご覧ください。

 

充血の検査

症状や所見によって様々です。

目の構造や傷の有無などを確認します。どこに異常があるのかを探し出すために、目だけでなく全身の状態から診断することもあります。

 

充血の原因が目にある場合

・フルオロセイン染色

黄色の染色液を目の表面に点眼し、角膜の傷があるところ見やすくする検査です。

角膜炎、角膜潰瘍、デスメ膜瘤などがわかります。また、染色液が鼻涙管を通過して鼻孔から出ているのを確認することもできます。

・スリットランプ検査

スリットランプという検査デバイスを使用して、スリット状の光を斜めから当てて、角膜、前眼房、虹彩、水晶体、硝子体の断面図を検査します。

濁り、炎症、異常な形態を直接目で検査することにより、角膜潰瘍、角膜浮腫、ぶどう膜炎、白内障、水晶体脱臼などを診断します。

・眼圧検査

眼圧計を使って眼の圧を測定する検査です。

犬の眼圧の正常値は10〜20mmHg、猫の眼圧の正常値は15〜25mmHgと言われています。 この眼圧が犬では25mmHg、猫では27mmHgを超えていた場合に緑内障と診断します。

低値の場合、ぶどう膜炎などの可能性があります。

・眼底検査

眼底カメラや倒像鏡を使って、肉眼では見えない眼底(網膜や視神経乳頭など)の状況を検査します。光を当てて行う検査で、散瞳する点眼液を使用します。

・シルマーティアテスト

涙の分泌量を測定する検査です。細長い試験紙を目と下まぶたの間に挟んで、1分間で涙がどれくらいでているのか検査する方法です。涙産生能の評価‥色素性角膜炎、粘液性眼脂、角膜潰瘍、ドライアイ、乾性角膜炎の診断に使用します。

・超音波検査

眼球に超音波をあてて、眼球の大きさや眼球の中の構造を観察する検査です。

目の中の形状を検査し、水晶体脱臼や網膜剥離、眼内腫瘍などの診断に使用します。

・網膜電位図検査

ERG( Electroretinography)検査のことで、網膜に強い光を当てその電位変化を記録し、その波形から網膜の働きが正常かどうか調べる検査です。進行性網膜萎縮や突発性後天性網膜変性症などを診断する際に使用します。

 

充血の原因が目以外にある場合

全身の高血圧、リンパ腫などの腫瘍、血液の凝固異常などが原因で充血がみられることがあります。

これらは、血液検査、血圧測定、超音波検査、CT検査など疑わしい疾患に合わせて検査していきます。

 

充血の治療

原因である病気の治療をします。ご自宅で定期的な点眼をしていただくことが多いです。

場合によって、目を手足などで擦らないようにエリザベスカラーの着用していただくこともあります。人間のように眼帯をつけて目を閉じていてほしくても犬猫にはそれが難しいため、原因や目の状態により治療法を決定します。

角膜に穴があいて(角膜穿孔)充血があり、点眼だけでは良くならない場合には外科的治療として瞬膜フラップという治療法があります。これは角膜が破けそうな状態、破けてしまったようなケースで行われ、瞬膜と眼球結膜を利用して一定期間、物理的に目を開けないようにして治療するという方法です。

最近では瞬膜フラップの代わりに動物用のコンタクトレンズを装着する方法やまぶたを一時的に部分縫合する方法も選択肢のひとつとなります。

急性の緑内障による充血の場合には点眼薬での治療がメインとなります。点眼薬でコントロールできない場合、前房シャント術などの外科治療が推奨されることもあります。

 

ご自宅での点眼がうまくできないとお悩みの方はこちらをご参考になさってください。

 

充血の予防

目が赤くなりやすい犬種は特に注意が必要です。

例えば生まれつき目が大きく飛び出しているシーズー、パグ、ペキニーズ、キャバリアは日ごろからのケアと観察が必要になります。

いわゆる短頭種で鼻ペチャと呼ばれる犬種は顔のひだが目に触れていることも多く、点眼薬だけでは治らず手術が必要になるケースもあります。

柴犬は緑内障が多いため、ご自宅では左右の眼球の大きさを比較したり目を気にする仕草などがないか観察してあげるといいでしょう。

 

こんなときはすぐ動物病院へ

下記のような症状が見られる場合は、犬猫が不快感をもっているサインです。

・涙目が3日以上続く

・目ヤニを拭きとってもすぐにまた目ヤニがでる

・目ヤニが黄色い、緑色

・目が開かない

・しょぼしょぼしている

・目を気にして掻く、床やソファーに擦りつける

・元気食欲がない

・嘔吐

ご家族はいつもと犬猫の様子が違うことに気付き、早く受診することが大切です。

目の症状は時に発見が遅くなることもありますので気になる様子がある場合には動物病院にご相談ください。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。