犬や猫の口の中にできものができた、これって何かの病気?原因や治療法ご紹介します。
口の中にできもの?
犬や猫の口の中を詳細に観察することができる方はそれほど多くないかもしれません。しかし、意外と口の中にできものができることは珍しいことではありません。
犬では腫瘍全体の3-12%、猫では6%が口の中の腫瘍だったと報告もされています。できるだけ早く動物病院で見てもらった方が良いでしょう。
良性のものならば「よかった」で済みますが、悪性のものの場合はできるだけ早い段階で治療を検討しないと手遅れになってしまうことも多いので注意しましょう。
できものの原因は?
口の中は犬や猫でも人と同じようにデンタルケアを怠ってしまうと、口内炎や歯周病が起きることはよく知られています。
そんな歯周病などの持続的な炎症が原因で過形成というしこりができたり、膿が溜まってしまうことがあります。また、しこりは悪性腫瘍の可能性もあります。
腫瘍ができる原因はまだはっきりわかってはいませんが、良性腫瘍の一部でも歯周病などの炎症が原因ではないかと言われています。
いくつかの薬剤では副作用として歯肉が広範囲に盛り上がってできもののように見えることもあります。
犬はどんなタイプのできものが考えられる?
犬において歯肉のできものに対してエプリスという表現をされることもあるかもしれません。
ただし、犬のエプリスは炎症に伴うものも腫瘍のものも含まれ、「歯肉のできもの」という意味合いで使われていたりしているので、良性か悪性か分かりづらいので最近はエプリスという表現は無くなってきています。
猫はどんなタイプのできものが考えられる?
猫の口の中のできものは、良性の腫瘤が見られることは多くありません。
むしろ猫では悪性のことが多く、特に扁平上皮癌の悪性度が高く進行が非常に早いやっかいな腫瘍です。
粘膜の潰瘍としてみられることもありますが、舌の根っこや歯肉よりも下の固めのしこりとして骨を溶かしていることもあります。
どんな症状がでる?
口の中にできものができても初期の段階ではご家族が気付ける症状がでることは少なく、特に口の奥の方にできるものや歯肉の下で隆起してくるタイプのできものは極端に大きくなるまで気付けないことも多いです。
しこりが大きくなると、ヨダレが増える(ときに出血を伴う)、口臭が強くなる、口周りを触られることを嫌がる/痛がる、食欲が低下する、頬や下顎が腫れてくる、口をくちゃくちゃするなどの症状が見られることがあります。
診断はどうやってする?
過形成なのか腫瘍なのか良性なのか悪性なのかを調べるには、細い針で細胞を採取する細胞診を行うか、できものの一部もしくは全部を切り取って検査する病理組織検査が必要になります。
できものの種類によっては細胞診で診断がつくケースもありますが、細胞診では診断が不明瞭で病理組織検査が必要になることも多いです。
良性のものが疑われる場合には治療も兼ねて切除、病理組織検査、同時に歯周病治療としてのスケーリングを実施します。
悪性の可能性がある場合には、部分的な切除を実施して病理組織検査を実施したのちに手術などの計画をたてていきます。
また、しこりの見た目も診断の一助になることがあります。
特に犬の悪性腫瘍において、悪性黒色腫のうち2/3では黒くてもろいカリフラワー状のしこりとしてみられますし、扁平上皮癌や棘細胞性エナメル上皮腫では赤いカリフラワー状にみられることが多いです。
線維肉腫は硬い膨らみのような増大の仕方をすることが多いなどの特徴があります。
治療方法は?
基本的には、口の中のできものに対する治療法としては外科的な切除が第一選択となります。
炎症に伴う過形成や良性の腫瘍性のできものであれば病理組織検査も兼ねて切除しきってしまえば根治となることもあります。ただし、良性とはいえ腫瘍性の場合は歯根部の膜までしっかりと切除しないと再発することもあります。
悪性の腫瘍性のものでは、歯肉部分だけではなく顎骨にまで浸潤することが多くみられるため、顎骨まで含めた大きな切除を検討する必要があります。
良性のものでも棘細胞性エナメル上皮腫は、顎骨への浸潤が見られることが多いため、顎骨まで含めた外科切除の実施が勧められます。
悪性黒色腫以外はそれほど転移を起こすことは多くないですが、マージンをつけて大きく切除をしないと再発することも多いのが口の中の悪性腫瘍の特徴になります。
外科手術の一番の欠点として顔面の変化が出る可能性があげられます。
猫では、口の中がとても小さいため、マージンを大きく取ることが難しくなります。
特に扁平上皮癌の場合は外科手術後も再発率が非常に高く、根治がかなり難しい腫瘍となります。
最近では早期の発見と下顎から舌を全て切除する手術で治療成績がかなり伸びたといった報告も出てきていますのでさらなる検証が期待されます。
また、放射線治療も一部の悪性腫瘍において痛みや出血などを抑えるといった局所コントロールとして有効となることがありますが、それのみで根治を望むのは難しいことが多く、外科的な手術と併用することは再発予防として効果を望める可能性があります。
内科的な化学療法のみで悪性腫瘍をコントロールすることは期待できませんが、メラノーマでは転移を頻繁に起こすので、転移予防のために抗がん剤を使用することも検討します。
また、扁平上皮癌ではNSAIDs(消炎鎮痛剤)が腫瘍の増大を遅らせる可能性があります。
猫の扁平上皮癌では分子標的薬が一定の効果が期待できる可能性があります。
近年、動注療法と呼ばれるインターベンショナルラディオロジー(血管造影などの画像をガイドにする治療法)で、腫瘍組織へ高濃度に抗がん剤を投与したり、放射線治療を併用したりする方法が試みられています。
外科手術だと顔面の外貌の変化が免れないこともありますが、それを避けて治療が可能になるかもしれないため今後の発展に期待したいところです。
治療後はどうなる?
過形成のものでは、切除することで治りますがその後のデンタルケアは必須となります。
良性の腫瘍の場合も適切に切除できていれば再発する可能性は少なく、根治できることが多いです。悪性のできものではタイプによって治療後の予後が変わってきます。
悪性黒色腫は再発を起こすこともありますが、肺への転移によって亡くなることが多いです。治療後の生存期間中央値(以下MST)は8-12ヶ月、無治療では約2ヶ月と言われています。
犬の扁平上皮癌では上顎か下顎かによっても違いがあると言われており治療後のMSTはそれぞれ10-19ヶ月、19-26ヶ月と報告されています。
また、線維肉腫では10-12ヶ月、棘細胞性エナメル上皮腫では3年以上と報告されています。
手術で顎骨を切除した場合、その後の食生活を不安に思われるかもしれません。手術直後は食べるのに介助が必要なこともありますが、徐々に適応して食べられるようになることがほとんどです。手術後の採食に不安があるケースでは手術と同時に胃ろうチューブをつけて栄養維持や投薬を行うこともあります。
犬や猫の口の中は意識しないと、異常を見過ごしてしまうことも多いかもしれません。デンタルケアもしてあげながら、日々の体調チェックに口腔内の確認も入れてあげましょう。犬でも猫でも口の中のしこりは、悪性腫瘍の可能性があります。そして、悪性腫瘍であればより早期の治療が望まれます。手術自体も大がかりになりすぎず、再発の可能性も低く抑える可能性が高くなります。できものがある、腫れているなど気になることがあれば早めに動物病院の受診をしてあげてください。