犬と猫の内部寄生虫の話~便の中の白い糸状のもの、それ回虫かもしれません~
子犬や子猫を迎え入れ、やっとおうちに慣れてくれたかな…とほっとしたのも束の間、あれ?便に糸のようなものが混ざっている!
これまでにそんな経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか?
便の混入物には誤食による異物や寄生虫といった原因があげられますが、今回は寄生虫の1つである「回虫」についてお話します。
回虫とは
寄生虫はおおまかに外部寄生虫と内部寄生虫に分けられます。
外部寄生虫ではノミやダニが代表的ですね。
内部寄生虫はさらに原虫と蠕虫に大別され、蠕虫は吸虫類、条虫類、線虫類の3種に分類されています。
有名なサナダ虫は日本海裂頭条虫と呼ばれますが、その名の通り条虫に分類される寄生虫です。
そして今回のお話の主役、「回虫」は線虫類に分類されます。
線虫という名から連想できる通り、うどんのような形状で両端が細く尖っている雌雄異体の寄生虫です。
体長はおよそ20~30㎝、雌のほうが長いのが特徴です。
虫卵は楕円形で、外側に厚いタンパクの膜を有しています。
大きさはおよそ70㎛、肉眼ではみえませんが顕微鏡下では観察が可能です。
回虫にはネコ科動物を終宿主とする「猫回虫」、イヌ科動物を終宿主とする「犬回虫」、どちらも終宿主とする「犬小回虫」、ほかにもいくつかの種類が存在します。
ちなみに、線虫類で特に代表的なものといえば犬糸状虫、いわゆるフィラリアが有名です。
最終的に成虫が寄生し、虫卵を排出するもの(ここではイヌやネコ)を終宿主といいます。
ライフサイクルにおいて必ずしも経由する必要はないが、幼虫が寄生できるもの(ここではねずみや鳥、昆虫など)を待機宿主といいます。
待機宿主の体内では基本的に成虫に成長することはできないため、虫卵の排泄もしないのが一般的です。
回虫の感染経路
猫回虫と犬回虫のライフサイクルや感染経路、症状はほとんど同じです。
虫卵や待機宿主を経口摂取する、あるいは母乳を介して子犬や子猫が幼虫を摂取することで感染します。
犬回虫は胎盤を介して幼虫が移動する場合があり、猫回虫と異なる点です。
摂取された虫卵や幼虫は体内を移動して最終的に小腸へたどり着いて成虫になります。
雄と雌が同時に感染していた場合は産卵し、その虫卵は糞便に交じって排泄されます。
排泄された虫卵は非常に丈夫であるため、土の中でも数カ月~数年生存可能といわれています。
感染後の体内の移動経路には大きく2つ、気管型移行と全身型移行があります。
気管型は小腸でふ化した幼虫が血液やリンパ管を通って肺に移動した後、痰に混ざって出されます。痰の中の幼虫が再度飲み込まれて小腸に戻り成虫となります。
全身型では全身の筋肉や臓器にたどりつき袋に包まれた形(被嚢)で休眠状態となります。
また、回虫症はヒトにも感染する「人獣共通感染症」のひとつです。
症状
抵抗性の低い子犬や子猫では下痢や嘔吐などの消化器症状がでます。
栄養を吸収する役割を持つ小腸に回虫が寄生するために、栄養不良を起こして発育不良や衰弱、脱水を起こすことがあります。重度の感染により腸閉塞を起こした例も報告されています。
子犬や子猫でなければ基本的には症状はあまり出ることがなく、不顕性感染と言われる状態になっていることが多くあります。
また、大人になると抵抗性がついてきているために、回虫が成虫まで成長しにくいともいわれています。
トキソカラ症(幼虫移行症)
幼虫が体内の様々臓器に移行することにより生じるものをトキソカラ症といいます。
ヒトは回虫のライフサイクルにおいての待機宿主に当たります。
感染個体との接触や虫卵に汚染された環境を介して口に入った場合やレバーや肉の生食によって感染すると言われています。
日本では昭和40年頃までは身近であった回虫症やトキソカラ症ですが、近年はあまり耳にすることはなくなりました。
しかし、世界では未だ多くの感染事例が報告されています。
幼虫が侵入した臓器によって様々な症状がみられます。
肺の場合には咳、脳の場合にはてんかんのような発作を起こすといわれています。眼に侵入すると視力に影響を及ぼし、最悪の場合には失明に至ることもあります。
また、対症療法的な駆虫薬の使用や抗炎症薬を用いることはありますが、根本的な治療は確立されていないのが現状です。
ガーデニングや子供の砂遊び、外遊びのあとはしっかり手洗いをしましょう。
また、汚染された土壌から野菜などに付着していることもありますので、調理前にしっかり洗って過熱をするようにしましょう。
診断
不顕性感染が多いことから、便に虫が混ざっているのを発見して初めて感染していることに気付いた、なんていうことも少なくありません。
また下痢といった症状を呈する場合には、糞便検査を行って虫卵の有無によって診断を行います。
治療
駆虫薬を用いて治療を行います。
回虫に駆虫に効果のある成分として、以下の成分があります。
マクロライド系抗菌薬:イベルメクチン、ミルベマイシン、モキシデクチン
イミダゾール系:フェバンテル、イミダクロプリド
その他:パモ酸ピランテル、
駆虫薬として処方されるドロンタール錠のほか、予防薬にも成分が含まれているものがあります。
感染を防ぐには
先に挙げた予防薬の定期的な投与を行い、日ごろから予防に取り組むことが大切です。
予防薬には様々な種類がありますので、迷われた場合やご質問などはお気軽にスタッフへお尋ねください。
回虫はヒトにも感染します。
ガーデニングや子供の砂遊び、外遊びのあとはしっかり手洗いすることを心がけましょう。
また、汚染された土壌から野菜などに付着していることもありますので、調理前にしっかり洗い、過熱をするようにしましょう。
飼っている動物が感染している場合には、排泄物は手袋を着用してすぐ片付けるなど注意して処理を行いましょう。