膝蓋骨内方脱臼
当院で実施した外科症例について紹介します。
今回は膝蓋骨内方脱臼に対して外科手術を行った症例です。
※術中写真が表示されますので苦手な方はご注意ください。
プロフィール
犬 チワワ 雌 7歳10ヶ月
来院理由
健康診断
保護犬で以前から両側膝蓋骨の内方脱臼が認められているため、手術を検討していた。
既往歴
なし
検査
院内で歩行時症状認められず
身体検査上で両側膝蓋骨の内方脱臼が認められる
レントゲン検査で、膝蓋骨の内側への脱臼が認められる
診断
両側膝蓋骨内方脱臼グレード3
外科手術
今回の症例では4つの術式を組み合わせて手術実施
①内側支帯開放術
膝蓋骨を内側に引っ張る力を減らすために、膝の内側につながる内側広筋や縫工筋といった筋肉を切り離す
②滑車溝形成術
膝蓋骨脱臼がある場合、膝蓋骨がはまる溝(滑車溝)が浅いことが多いためこの溝を深く形成
③脛骨粗面転移術
膝蓋骨は膝蓋靱帯とよばれる靱帯によって脛骨(すねの骨)の脛骨粗面と呼ばれる場所と繋がっており、脛骨粗面が内側にあると脱臼が起こりやすいため、膝蓋骨、膝蓋靱帯、脛骨粗面が一直線に並ぶ位置に、脛骨粗面を移動
移動させた脛骨粗面は、金属のピンで動かないように固定
④関節包縫縮術
膝蓋骨を外側に適度に引っ張ることで膝蓋骨が内側に外れにくくするため、膝の外側にある関節包を縫い縮める
手術後の経過
術後1週間 患肢をたまに持ち上げることはあるが、体重をかけられている 疼痛なし
術後4週間 歩き方問題なし
膝蓋骨内方脱臼について
膝蓋骨内方脱臼は、膝にある膝蓋骨(膝のお皿)が、大腿骨(太ももの骨)にある溝から内側に外れてしまう状態をいいます。
すべての犬種で起こる可能性はありますが小型犬での発生が多いです。遺伝的な要因と、環境要因とが組み合わさっているとも言われています。
症状としては、脱臼しても特に症状がほとんど認められない場合もあれば、いつもと違う歩き方や後ろ足をあげるような様子が見られることもあります。
膝蓋骨内方脱臼には4段階のグレードがあり、数字が大きくなるほど重度になります。
・グレード1
通常は脱臼していないが、触診で簡単に脱臼を誘発できる
・グレード2
膝を曲げ伸ばしするだけで簡単に脱臼が誘発される
・グレード3
通常時は脱臼をしているが、触診で元の位置に戻すことができる
・グレード4
通常時から脱臼していて、元の位置に押し戻すことができない
脱臼の程度が軽度であり、症状が特にない場合は様子を見ることもありますが、症状が出ている場合や、症状がなくても脱臼の程度が重度であれば外科手術がすすめられます。
また、1歳未満は膝蓋骨脱臼があると、骨や筋肉の成長と共に変形が認められることがあるため重度の脱臼やグレードの進行が見られる場合は早めに手術することがすすめられます。
進行の予防としては、肥満の場合は減量をすることやフローリングなどの滑りやすい床での生活を避け、ジャンプや膝への負担が大きい運動を制限することが大事です。
根本的に状態の改善を目指すのであれば手術が必要であり、膝蓋骨脱臼を放っておくと関節炎が早期に重度に進行する場合もあり、膝の中の重要な靭帯の前十字靭帯が切れやすくなるとも言われているため、獣医師が必要であると判断した場合は手術を検討しましょう。