犬と猫の乳がん ~お腹のしこり気になっていませんか?~

腹部にできるしこりで最もご家族が気付きやすい腫瘍が乳腺腫瘍、いわゆる乳がんです。

乳腺腫瘍とは、乳腺の組織の一部が腫瘍化して増殖することで「しこり」ができる病気のことをいいます。ひとことで乳腺腫瘍と言っても、いろいろな種類があって、良性のものから悪性度や進行度の度合いも様々です。

これは圧倒的にメスに多い腫瘍ですが、オスでも発生する可能性があります。今回は乳腺腫瘍について解説していきます。

 

乳腺腫瘍の原因

「しこり=腫瘍」ではなく、角化組織の塊や炎症、怪我のあとの硬結、腫瘤、腫瘍など、しこりはいろいろな原因で起こります。

乳腺腫瘍ができるのには、性ホルモンが関わっていると言われています。そのため、発情前に避妊手術を行うことで発生率をぐんと下げることができます。

犬では、初回発情が来る前に避妊手術を行ったメスの乳腺腫瘍の発生率は0.05%、初回発情後で8%、2回以上の発情後で26%の発生率と言われています。

猫では、生後6ヶ月未満で避妊手術をした群は発症リスクが91%減少し、生後1年未満で手術をした猫では86%減少、それ以降は11%の減少率という報告があります。

乳腺腫瘍の発生率を低下させるだけでなく、卵巣子宮の病気の予防のためにも出産させる予定がない場合には早期の避妊手術が推奨されています。

一般的に小型犬では生後6か月齢頃が手術の適齢期とされています。手術の時期が早すぎても麻酔のリスクがあるため、手術の時期を決める際は体重や乳歯の生え変わりなども診てもらいながら獣医師とよく相談して決めましょう。

 

乳腺腫瘍の症状

乳腺腫瘍の症状は、まず乳腺に沿ったライン上にしこりができます。

はじめは米粒ほどの大きさで被毛に覆われていることもありわかりにくいですが、だんだん大きくなってくることで異変に気が付くご家族が多いです。初期段階はしこりがあること以外は無症状であることが多く、進行していくと舐めて気にする行動がみられたり、自壊(腫瘍が破裂すること)して出血や悪臭がするようになります。

良性と悪性がありますが、悪性の場合はリンパ節や肺、その他の臓器に転移し、死に至ることもあります。

 

乳腺腫瘍の検査

乳腺腫瘍だと予想される場所にしこりを発見したら、それがどんな細胞で構成されるしこりなのか検査します。

まず、しこりに細い針を刺して細胞を採取し顕微鏡で観察する検査を行います。これによってしこりの正体の目星をつけます。

その他に、転移の確認のためレントゲン検査もしくはCT検査などによる画像検査も行います。

乳腺腫瘍において悪性の割合は、犬では約50%、猫では約80%と言われています。悪性の場合の進行具合は良性に比べて速いため、長期にわたって様子を見ているとどんどん大きくなり手が付けられない状態になってしまうこともあります。

レントゲン画像では、肺が白く映っている部分に転移がみられます。

少しでも気になることがあれば、お早めにご受診ください。

 

乳腺腫瘍の治療

乳腺腫瘍の治療方法として最も効果的なのは、外科手術で取り除く方法です。

乳腺腫瘍のみを部分的に切除する方法から、腫瘍がある乳腺やリンパ節までを広範囲に切除する方法もあります。

猫では犬と比較して乳腺腫瘍が悪性である可能性が高いことから、腫瘍が存在する側の乳腺をすべて切除する術式が推奨されます。

もし、左右の両側に乳腺腫瘍がある場合は、一度の手術で両側乳腺全摘出をせず1か月ほどの間隔をあけて片側ずつ広範囲の切除をします。これは乳腺とともに皮膚も広範囲に切除し縫い合わせる影響で、術後に胸が十分に膨らむだけの皮膚の余裕がないために呼吸が苦しくなってしまわないようにするためです。

その他に、抗がん剤治療や放射線治療を行うこともあります。

 

乳腺腫瘍の予防

先述したように初回発情前に避妊手術をすることで、乳腺腫瘍の発生率がかなり下がるため、早期避妊手術が推奨されます。しかし、ただ早ければ良いというわけではございません。適正な時期に手術を実施するため獣医師にご相談ください。

腫瘍が大きくなってからでは、手術の傷も大きく身体への負担にも大きく影響が出ます。

乳腺腫瘍は小さいうちに発見できるように普段からスキンシップをとるように意識し、お腹まわりをよく触って観察することが最も大切な予防といえます。

この記事を書いた人

南(獣医師 外科部長)
日本獣医がん学会、日本獣医麻酔外科学会に所属し外科部長として多くの手術症例を担当。犬猫からよく好かれ診察を楽しみにして来てくれることも多く、診察しながらずっとモフモフして癒してもらっていることも。見かけによらず大食漢でカップ焼きそばのペヤングが好き。1児の父であり猫と一緒に暮らしている。