犬の子宮蓄膿症

当院で実施した外科症例について紹介します。

今回は犬の子宮蓄膿症の症例です。

※術中写真が表示されますので苦手な方はご注意ください。

 

プロフィール

犬 チワワ 未避妊メス 6歳11か月

 

院理由

今朝から陰部を気にして舐める 軽度の食欲低下

 

既往歴

なし

 

検査

一般状態に特記すべき所見なし

左第5乳腺に直径6mm大の結節あり

血液検査では好中球数の上昇、ALPの上昇、CRPの上昇、血糖値のわずかな低下

超音波検査にて左右子宮の内膜の不整を伴う拡張が認められる

通常の子宮は超音波検査で描出されないが本症例では*で示した子宮が腫大した管腔構造として描出されている。

 

診断

子宮蓄膿症

 

外科手術

子宮蓄膿症の治療として子宮卵巣摘出術を実施

開腹後、拡張した子宮を傷つけ子宮内容物を腹腔内に漏れださせないように注意しながら取り出し、血圧の変動に注意しながら切離

腹腔内の出血がないことを確認した後、閉腹

併せて左第5乳腺部腫瘤辺縁部切除を実施

 

手術後の経過

手術によって摘出した子宮卵巣および左第5乳腺部腫瘤は病理検査、子宮内容物は細菌培養検査を実施

中央部にある二又の臓器が摘出した子宮。左右の子宮の先端に卵巣がある。周囲の液体は子宮内に貯留していた血様の膿。

 

左右卵巣は著変認められず、子宮は化膿性子宮内膜炎(子宮蓄膿症)

左第5乳腺は良性乳腺複合腺腫

という結果だった。

術後は抗生剤と消炎鎮痛剤を使用している。

本症例は症状が軽微であったこと、術後の状態が良好であったことから手術翌日の退院となった。

自宅では帰宅初日から元気があり、陰部を舐める様子も消失。

術後2週間で抜糸となり、抜糸時の血液検査では好中球数も低下し、CRPも正常範囲まで低下した。

体調良好なため以降経過観察とした。

 

子宮蓄膿症について

子宮蓄膿症とは子宮の中に細菌が入り込み子宮が腫れて内部に膿がたまる病気です。避妊手術を受けていない中高齢の雌でかかりやすいですが、若齢でも発症する可能性はあります。

初期でははっきりとした症状がない場合もありますが、多飲多尿、食欲不振、吐き気、元気消失、発熱、腹部膨満、陰部を気にして舐めるなどの症状がみられます。また、陰部から膿や出血がみられることもあります。

治療が遅れると細菌感染の影響が全身に広がり多臓器不全になったり、子宮が破裂すると腹膜炎をおこし容体が急変すると最終的には命を落とすことになります。子宮蓄膿症について詳しくはコチラをご覧ください。

治療としては一般的に手術によって卵巣と子宮を摘出する外科的治療が行われます。状態によっては入院管理のもと点滴しながら抗生剤などを使用して状態を整えてから手術を行うこともあります。一般的な避妊手術と比較して子宮蓄膿症では細菌感染を起こしているためリスクは高くなり、術後も数日の入院が必要になります。

高齢であったり、他の疾患の影響と麻酔リスクを考慮して内科的治療を行うこともありますが、一時的な状態改善は行えたとしても再発の可能性もあるため、できるだけ手術を選択することが多いです。

子宮蓄膿症は避妊手術をすることで予防することができます。出産させる予定がなければ小型犬であれば1歳未満(6~8ヵ月齢)で避妊手術するのがいいでしょう。避妊手術では子宮蓄膿症だけではなく乳腺腫瘍の発生率低下にもつながります。詳しくはコチラもご覧ください。

この記事を書いた人

小安(獣医師)
ご家族様が相談しやすい診療を心がけ、診察受けてよかったと思えるような獣医療を提供できるよう日々邁進中。趣味は美術館、博物館に行くことで非日常感が味わえる独特な空間が好き。実家では猫を飼っていて帰省するたび猫を吸っては猫アレルギーを発症させている。