断指術

当院で実施した外科症例について紹介します。

今回は猫の断指術をおこなった症例です。

※術中写真が表示されますので苦手な方はご注意ください。

 

プロフィール

猫 MIX 去勢雄 12歳7か月

 

来院理由

定期受診 左前肢のけが、1~2週間前から出血見られる 気にして舐める様子あり 歩行時疼痛あり

 

既往歴

糖尿病、左右前肢抜爪済み

 

検査

身体検査において左前肢端に1.1cm×0.9cm大の腫瘤あり、出血少量認められる

外傷性の炎症を踏まえて抗生剤の反応を見るも改善しないため細胞診検査を実施

左前肢X-rayにて第3指先端の軟部組織の腫脹、中節骨の骨溶解が認められる

胸部X-rayにて右肺中葉領域に1か所結節陰影あり

病変部位の周囲軟部組織が腫脹している。骨もわずかながら透過性が上がっており骨溶解が認められている。

 

細胞診結果

炎症、円柱状上皮様細胞、肺指症候群の可能性もあり

 

外科手術

今回はQOL(Quality of life:生活の質)の向上、病理組織検査のため断指術のみ実施

左前肢毛刈り後、第3指中手骨と基節骨の間で関節を切離し切除

切除した病変は病理組織検査へ提出

手術前に毛刈りをしたところ。他の指と比べて第3指が顕著に腫脹している。

関節面から切除しているため切断面で骨が確認できる。

足は地面をつくときに力が入るところなのでしっかりと縫合する。切除した指は病理組織検査へ提出。

赤点線が今回手術によって切離した部分

 

病理組織検査結果

慢性化膿性炎症 異物性炎症

 

手術後の経過

術創良好で術後2週間で抜糸実施

術前時に認められた右肺に認められた結節陰影も2か月後も変化なし

糖尿病のコントロールにおいても安定しており術前同様のインスリン量で継続している。

 

断指術について

この手術は主に腫瘍、慢性の細菌・真菌感染、重度の炎症、外傷など指先に何か障害が生じたときに適応されます。指は体重がかかる場所であり痛みがあると正しく歩くことができなくなったり、床に触れるときに出血を繰り返してしまったりと生活をしている中でいろんな障害が生じます。

腫瘍には扁平上皮癌、悪性黒色腫、軟部組織肉腫、骨肉腫、肥満細胞腫などの発生が考えられ、侵襲性が強いものもあり転移などの注意が必要です。また、猫では肺の腫瘍が指先に転移病変を作ること(肺指症候群)もあるため発見時にしっかりと指先以外に病変がないか確認することが大事になります。

炎症・感染などが原因になる場合、内科的な治療で完治できない、あるいは症状を繰り返す場合QOL向上のために実施されます。炎症であっても慢性経過や重度である場合は骨溶解を起こし骨髄炎などの骨の問題に広がる可能性もあります。

 

今回の症例では肺に認められた病変とは関連は認められていませんがこれからも経過観察していく予定です。

当院では腫瘍分野に強い獣医師も在籍しております。お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小安(獣医師)
ご家族様が相談しやすい診療を心がけ、診察受けてよかったと思えるような獣医療を提供できるよう日々邁進中。趣味は美術館、博物館に行くことで非日常感が味わえる独特な空間が好き。実家では猫を飼っていて帰省するたび猫を吸っては猫アレルギーを発症させている。