犬や猫が足をかばって歩く、歩き方がいつもと違うときに考えられる原因とは?

犬猫は手足を動かすことにより歩行します。そのため足に異常をきたしたときはその足をかばうために異常な歩行をします。

足を引きずるようになったり、ひょこひょこと歩いたりと異常な歩行のことを「跛行」と言います。

 

原因

跛行の原因は非常に多く、見た目で分かるものからいくつも検査をしないとわからないものまで様々です。

足は皮膚・筋肉・血管・神経・骨・靭帯・関節などから構成されていますが、これらのどこに異常をきたしても跛行が起こる可能性があります。

また、年齢や動物種、体格によってもかかりやすい病気が異なります。

主な疾患としては、骨折や脱臼、前十字靭帯断裂、関節炎、椎間板ヘルニアなどがあげられます。また、腫瘍などでも跛行の症状が出る場合があります。

若齢の小型犬であれば膝蓋骨内方脱臼、成熟した犬では関節炎などが多く見られます。

骨折

股関節脱臼

股関節脱臼についてはこちらもご参照ください。

 

検査

動物は人の言葉を話せないため、問診や検査が非常に重要になってきます。

跛行の診断では、問診・身体検査・歩様検査・整形学的検査・レントゲン検査を行います。

さらに原因や必要に応じて超音波検査やCT・MRI検査、関節鏡検査を行うこともあります。

また、痛みが強い場合や抵抗する場合は鎮静剤や鎮痛剤を使用しながら検査を行うこともあります。

 

問診

年齢やサイズによってなりやすい疾患もあるので、主訴と年齢とサイズ(犬種)から、なりやすい病気の可能性などを推測します。

ご家族から話を聞いてどの足に異常があると思われるか、跛行の開始時期や期間、過去の病歴、落下や外傷がないか、現在改善しているのかどうかなどをお聞きします。

 

身体検査

問診の後は、全身状態も含めて十分に動物を観察します。

具体的には、負重の程度や形態異常、筋肉の左右対称性、足と足の幅などを評価します。

また体温・心拍数・呼吸数測定や体表・腹部・脊椎の触診で、跛行以外の異常がないかを確認します。

 

歩様検査

歩様検査では、実際に診察室または院内ドッグランで歩かせて、整形外科的疾患による跛行なのか、それとも全身性の虚脱(脱力状態)や神経性の麻痺・運動失調なのかを判断します。

整形外科的疾患なのであれば、問題となっている足がどこか、跛行がどの程度か、どういったタイプの異常かなどを判断します。

 

整形学的検査

整形学的検査では立っている状態または横になっている状態での触診を行います。

立っている状態の触診では筋肉量や関節の腫れがないかどうか、関節の動く範囲などに問題ないかどうかを確認します。

横になっている状態での触診では、立っている時より詳しい情報を得ることが可能ですが、あまりに痛みが強かったり、嫌がったりする場合は、鎮静処置が必要な場合もあります。

例えば前十字靭帯が断裂してしまっていると、膝関節が不安定になって脛の骨が前方にずれます。これらを調べる検査が、脛骨前方引き出し試験や脛骨圧迫試験と呼ばれる検査になります。

脛骨前方引き出し試験で膝関節の不安定性を確認します

脛骨圧迫試験で脛骨が前方にずれないかを確認します

 

神経学的検査

神経的な異常でも歩様異常が起こることはあるため、脳神経が問題ないか、頸椎・腰椎など背骨の触診など神経的な異常がないかを確認します。

神経の異常がある場合は、ふらつきや麻痺といった歩様異常が認められることが多いですが、神経の痛みにより跛行が見られることもあります。このようなときに行う検査が神経学的検査になります。

神経学的検査では意識状態を評価し、姿勢や歩き方を観察します。また、触診で様々な刺激に対しての反応や反射を確認します。通常の診察室で実施する身体検査よりもより詳細に長い時間をかけて身体検査を行い、どの神経に病変があるかを推測する検査です。

神経学的検査によって神経的な異常が疑われる場合にはCTやMRI検査などを提案することもあります。

 

レントゲン検査

上記の検査で疑わしい異常をある程度特定した場合に、レントゲン検査を行って診断をすすめます。

レントゲン検査では問題のあると思われる足と正常な足を撮って比較を行います。

そのほか必要に応じて超音波検査やCT/MRI検査などが行われることもあります。

右が正常な膝関節、左が前十字靭帯が断裂したレントゲン写真です。左の膝関節の下の骨(脛骨)が前に出ていることがわかります。

前十字靭帯断裂についてはこちらをご参照ください。

 

治療

疾患によって治療が異なります。

軽い捻挫ならしばらく安静にしていればよくなってくることもありますが、整形疾患の場合は、基本的に外科手術が第一選択となることが多く、足にプレートを入れたり、あえて骨を切ることもあります。また、神経が原因の場合も手術が必要になることがあり、椎間板ヘルニアなどの場合は重症度によって早めに手術をしてあげたほうがいい場合もあります。

外科手術が難しいまたは麻酔のリスクが大きい場合は、症状を緩和するための痛み止めやサプリメントなどの保存療法を行います。

また、同じ疾患でも若齢か高齢かで治療が変わってくることもあるため獣医師の判断でその都度適切な治療を行わせていただきます。

整形疾患や神経疾患に限らず外科手術を行った後や筋力を落とさないようにするためにはリハビリが必要になることも多いです。

膝蓋骨内方脱臼の手術

 

予防

予防ができないことも多いですが、整形疾患の場合は、足への負担を軽減させるために適切な体重管理や激しい運動の制限、滑らない床材や段差をなくすなどの環境を整えることも疾患の進行予防として大切です。

 

歩き方がおかしい、足をあげっぱなし、段差を避けるようになったなどの症状が認められるのであれば、疾患によって早期の治療が必要な場合もありますので一度動物病院を受診することをおすすめします。

また動物病院に来ると、緊張などで跛行が認められないといったことがよくありますので、可能であれば家での跛行の動画を撮ってきていただけると診断の材料となります。

この記事を書いた人

海野(獣医師)
一人一人に寄り添った診療ができるようご家族様の話に耳を傾け、お気持ちを汲み取れるように心がけています。外科、救急医療分野の技術向上のため多くのセミナーを受講し、腕を磨いている。趣味はバイオリンと映画鑑賞。アクションやSFが好きでスターウォーズのダースモール推し。